弥縫録

その場しのぎで生きてく中年の記録

善行、ビジネスライク

数日、父がよく咳をしておりました。

年齢もそれなりなので、よくよく調べていただいたところ肺炎との診断がでました。

 

即入院。一週間ほどを見込む、とのことです。油断はできませんが、おそらくは無事に帰ってくるのでしょう。

 

私はその時仕事場におりました。付き添いの妹から連絡が入ったのですが、知らされた後はもうどうにもこうにも。地に足がつかず、大しくじりをしないようにするだけで精一杯でした。身内の入院というのはどうにも、心が掻き乱れます。

 

そんなもやもやした気分で帰宅したのですが、家に戻る直前に見つけた一つの財布。

 

はて、、?・・・あ!

 

私はピンときましたよ。これはアレだ、善行チャンスだ。

 

善因善果、悪因悪果

 

良いことには良い報いがある「確率が高い」と、信じ込めるのは私の良いところです。

そう信じたらほら、気が楽でしょう。最悪、色々だめだとしても、そのときに悲嘆に暮れたら良いのです。それまでは、あくまで朗らかに生きていたいのです。

 

で、落ちていた財布を軽く開いたら、カード類がちらほらと。これはもうガチ財布で確定です。落としたら困るものでしょう。

 

それがわかれば後は早い。早速近くの交番に向かい、拾得物の届けをすることにしました。

 

若いお巡りさんがパソコンでなにか作業をしている、薄暗い夕方の交番。何も悪いことをしていないので、気後れせずに入っていきます。

 

カクカクシカジカ、、事情を説明すると、早速お巡りさんは財布の中身を改め始めます。

するとまぁ、、なんというか。十万円以上入ってましたよ。知らないから気軽に届け出た財布ですが、思いの外、落とし主が真っ青になっている財布でした。これは良いですよ、善行ポイントが激アツです。

 

カード類もなかなかの量入っていたおかげで、書類手続きに時間がかかりましたが、なんとか無事に拾得物届ができました。

 

「権利とかどうされますか?」

 

拾得にかかった費用を請求する権利と、謝礼を請求する権利と、持ち主が現れない場合にもらえる権利。これをどうしますか、という問いです。

 

正確には13万4千円。カード類がしっかり入っておりましたし、金額もかなり多い。落とし主が見つからないということは無いだろう、という打算は当然あったうえで、私の答えは

 

「全部いりません。連絡先もお伝えいただかなくて結構です。持ち主が見つかると良いですね(ニッコリ)」

 

完璧に決まりました。人の為にした善ですが、やらぬ善よりやる偽善です。

思ったよりも長くかかった手続きを終え、すっかり夜の帳が下りた道を帰ります。

 

家の近くまで来ると、明らかに何かを探している人の姿が見えました。そこでまた、私はピンときました。

 

「もしもし、ひょっとしてお財布をお探しですか」

 

声をかけてみると、正しく財布の持ち主が悲壮な顔で暗い路上に視線を落としているのでした。

 

事の顛末を説明し、警察に届けてあるから受け取りにいけば大丈夫ですよ、と伝えると、ああ人間はこんなにも表情が明るくなるものか、と感心するほど晴れやかな笑顔が、宵闇を心なしか明るく照らすようでした。

 

凄まじい速さのスピード解決。

金額も大きかったし、声をかけたのもポイントは高かっただろう。

 

父の体調が順調に回復するための対価として、この善行が使われると良いなぁと。

 

誰も損した人がいないんだから、多少損得勘定で良いことをしたってバチは当たらないはずです。

しかし、何かしら尊いご存在が偽善が気に入らないと思し召し、何かしら当てたいというのであれば、ぜひともtoto BIGの方をお願いしたいと考えている、色々台無しな私でありました。